進歩したいブログ

関西人のオタ・野球ブログです。

進歩の無い小説SS「さよなら幽霊少女」1話

「真一〜。今ちょっと良い〜?」
夏休み初日。俺が休みを謳歌する為にゲームなどしていると部屋がノックされ、そんな声が聞こえて来た。
「いいぞ〜」
俺がそう言うと部屋の扉が開・・・かずに何故か女の子が壁をうにょ〜っとすり抜けて部屋の中に入ってきた。
「うわぁぁぁぁ!おい幽美!部屋に入る時はドアを開けて入って来いって言っただろ!」
「アンタまだ慣れないの?あたしがこの家に来てからもうだいぶ経つのに」
「そういう問題じゃない!いきなり人が壁をすり抜けて来たら心臓に悪いだろうが!」
そう。この壁をすり抜けて来た少女はウチで居候している幽霊少女の幽美(ゆみ)だ。
確か俺が学校で彼女とぶつかってしまい、それがきっかけで彼女が幽霊だと知り、そしてウチに来ないかと俺が誘ったんだっけ。
ちなみに出会った当初は壁をすり抜けようとして手を壁に突っ込んだら手が抜けなくなってしまったというお間抜けなエピソードを持つ彼女だが、最近はすっかり慣れてしまったのか自由に壁をすり抜ける事が出来るようになっていた。
そのくせ俺の部屋をノックしたように普通に物にも触れるらしく、その辺は意識するだけで自由に物に触ったり透過出来たりするらしい。ホントに便利な体だよな。
「で何か用か?お前が俺の部屋に来るなんて珍しいな」
「うん。ちょっとアンタに頼みが有ってさ・・・」
「頼み?」
「そう。もう一生使いきって人生ロスタイムに入ってるけど一生のお願い!」
「誰が上手い事・・・まあ『金よこせ』とか『キモイから死んで』とかみたいな無理なお願いじゃなきゃ別に良いけど」
「そんな事頼まわないわよ!」
「で頼みってのは何なんだ?」
俺がそう聞くと彼女は意を決したようにこう言った。


「私の『未練探し』に付き合ってくれない?」


「・・・・・・。未練探し?」
突如出た不思議ワードに思わず首をかしげてしまう俺。
「ほら。忘れられてるかもだけど私って幽霊じゃん」
「いや別に忘れてはないけど・・・まあそうだな」
「でさあ。幽霊ってこの世に未練が有るから、こうやって幽霊としてこの世に残ってる訳じゃん?」
訳じゃん?と言われても俺は幽霊発生のメカニズムなんて知らないが。
まあ話の腰を折るのも何なのでとりあえず頷いておく事にした。
「そういう訳で私の未練をアンタに一緒に探してほしいのよ」
「そういう訳でって・・・。そもそも自分の未練が何なのか自分で覚えてないのか?」
「うん全く」
悪びれた表情一つせずに頷く幽霊少女。
「ただ私アンタと出会う前までは何故かずっと学校に居たのよ。だから多分だけど学校に関係した未練なんじゃないかと思うの」
「ふーん。でも未練って言われてもどうやって探せばいいんだ?」
まさかダイソー当たりで売ってる訳でもあるまいし。
「アンタもう夏休みでしょ。だから私と一緒に学校を回って欲しいのよ」
「そんな事で良いのか?」
「うん。実花(妹)は家事やらなんやらで忙しそうだし魔法少女もやる事あるみたいだし。だからアンタなら絶対暇だと思ってさ」
「一言余計なんだよ!」
まあ確かに暇だけど。夏休みに一緒に遊んでくれる友達も居ないしさ。ぐすん。
「まあ、それくらいなら付き合ってやるさ」
「ホント!?ありがと〜!真一大好き!」
「いや、そんな取ってつけたように言われても・・・」
そう言いつつも内心では少しドキッとしてしまったじゃないか。
「じゃあ明日からヨロシクね!バ〜イ!」
そう言って幽美はまた壁をすり抜けて部屋の外に出て行ってしまった。
ただ。
ただ・・・去り際に見せた彼女の横顔は何故か少し悲しそうに見えたのだった。
続く。